北米の広大な大地を象徴するカナダ国歌「オー・カナダ」は、オリンピックやアイスホッケーの試合などで耳にする機会も多い楽曲です。
実はこの国歌には英語とフランス語という二つの異なる言語の歌詞が存在し、それぞれが全く違った意味を持っていることをご存知でしょうか。
さらに近年では、ジェンダー平等や先住民族への配慮から、歌詞や歌われ方に変更が加えられるなど、カナダという国のあり方を映し出す鏡のような存在とも言えますね。
今回はカナダ国歌の歌詞の和訳やカタカナでの発音、そして歴史的な背景について、私なりの視点で詳しく解説していきます。
- 英語とフランス語で異なる歌詞の意味と世界観
- 歌う際に役立つ実践的なカタカナ発音のポイント
- 2018年の歌詞変更に見るジェンダー平等への意識
- 制定までの歴史やスポーツシーンでの演奏マナー
英語と仏語があるカナダ国歌の歌詞

カナダは英語とフランス語を公用語とする多文化国家ですが、その国歌「オー・カナダ(O Canada)」もまた、二つの言語で歌われるという世界的にも珍しい特徴を持っています。
興味深いのは、この二つの歌詞がお互いの翻訳ではなく、それぞれ独立した内容と歴史的背景を持っている点です。
英語の歌詞は広大な自然と未来への決意を、フランス語の歌詞は歴史と信仰を重んじる傾向があり、これらを比較することでカナダという国の重層的なアイデンティティが見えてくると私は考えます。
英語歌詞の和訳と意味を解説
現在広く知られている英語の歌詞は、カナダの雄大な自然と、それを守り抜くという国民の意志が強く表現されています。
特に印象的なのは「The True North strong and free(真の北国、強くして自由)」というフレーズでしょう。
これはカナダ人のアイデンティティの核心部分であり、厳しい寒さの中で培われた強さと自由の精神を象徴していると分析できます。
以下に、公式な英語歌詞とその意訳を整理しました。
| 英語歌詞 (Official) | 日本語訳(意訳) |
|---|---|
| O Canada! Our home and native land! | おお、カナダ! 我らの故郷、そして母なる大地よ! |
| True patriot love in all of us command. | 我らすべての中に、真の愛国心を呼び覚ませ。 |
| With glowing hearts we see thee rise, | 燃えるような心で、我らは汝(国)の興隆を見守る。 |
| The True North strong and free! | 真の北国、強くして自由な国を! |
| From far and wide, O Canada, | 遥か彼方より、おお、カナダよ、 |
| We stand on guard for thee. | 我らは汝を守るために立つ。 |
| God keep our land glorious and free! | 神よ、我らの土地を栄光と自由に満たしたまえ! |
| O Canada, we stand on guard for thee. | おお、カナダ、我らは汝を守るために立つ。 |
| O Canada, we stand on guard for thee. | おお、カナダ、我らは汝を守るために立つ。 |
ここで注目すべきは、「We stand on guard for thee(我らは汝を守るために立つ)」というフレーズが繰り返される点です。
これは単なる愛国心の表現にとどまらず、広大な国土を防衛するという軍事的なニュアンスも含んだ、非常に力強い誓いの言葉であると言えますね。
フランス語版の歌詞と和訳
一方のフランス語版は、英語歌詞とは全く異なる世界観を持っています。
こちらは1880年に作られたオリジナルの歌詞であり、当時のフランス系カナダ人のカトリック信仰や、自分たちの歴史に対する誇りが色濃く反映されているのが特徴です。
| フランス語歌詞 (Official) | 日本語訳(意訳) |
|---|---|
| Ô Canada! Terre de nos aïeux, | おお、カナダ! 我らの父祖の地よ、 |
| Ton front est ceint de fleurons glorieux! | 汝の額は、栄光の花冠で飾られている! |
| Car ton bras sait porter l’épée, | なぜなら汝の腕は剣を掲げることができ、 |
| Il sait porter la croix! | 十字架を掲げることもできるからだ! |
| Ton histoire est une épopée | 汝の歴史は、叙事詩そのものだ。 |
| Des plus brillants exploits. | 最も輝かしい偉業によって綴られた。 |
| Et ta valeur, de foi trempée, | そして信仰によって鍛えられた汝の勇気は、 |
| Protégera nos foyers et nos droits. | 我らの家庭と権利を守るであろう。 |
| Protégera nos foyers et nos droits. | 我らの家庭と権利を守るであろう。 |
英語歌詞が「国」を守ることを強調しているのに対し、フランス語歌詞では「家庭(foyers)」と「権利(droits)」を守るという表現で終わっています。
これは、イギリス系がマジョリティとなるカナダ社会において、フランス系の文化や言語といったマイノリティとしての権利を守り抜くという、内向きの決意表明であったとも解釈できます。
歌うためのカタカナ発音ガイド
スポーツ観戦などで一緒に歌いたいという方のために、英語歌詞のカタカナ発音ガイドを作成しました。
英語のリズムに乗せるためには、単語を一つひとつ区切るのではなく、滑らかにつなげて発音するのがポイントです。
英語歌詞のカタカナ読み目安
オゥ・キャナダ! アゥ・ホーム・アン・ネイティヴ・ランド!
トゥルー・ペイトリオット・ラヴ・イン・オール・オブ・アス・カマンド。
ウィズ・グローイング・ハーツ・ウィ・スィー・ズィー・ライズ、
ザ・トゥルー・ノース・ストロング・アン・フリー!
フラム・ファー・アン・ワイド、オゥ・キャナダ、
ウィ・スタンド・オン・ガード・フォー・ズィー。
ゴッド・キープ・アゥ・ランド・グローリアス・アン・フリー!
オゥ・キャナダ、ウィ・スタンド・オン・ガード・フォー・ズィー。
オゥ・キャナダ、ウィ・スタンド・オン・ガード・フォー・ズィー。
特に「O(オゥ)」の部分は、単に「オー」と伸ばすのではなく、口を丸めて二重母音のように響かせると、より現地の発音に近づきます。
また、「World」や「Guard」といった単語に含まれるRの音は、舌を少し巻くように意識すると、北米英語らしい響きになりますね。
2018年の歌詞変更とジェンダー
「オー・カナダ」を語る上で避けて通れないのが、2018年に行われた歌詞の改定です。
これは、英語歌詞の中にあったジェンダーに関する表現を、より中立的で平等なものにするための法改正でした。
変更点
- 旧:True patriot love in all thy sons command(汝のすべての息子たちに命ず)
- 新:True patriot love in all of us command(我らすべてに命ず)
かつての歌詞では「息子たち(sons)」という男性を指す言葉が使われていましたが、これが女性を排除しているという長年の批判に応える形で、「我らすべて(of us)」に変更されました。
この変更を主導したのは、当時ALS(筋萎縮性側索硬化症)と闘っていたモーリル・ベランジェ下院議員でした。
彼は声を失いながらも、テクノロジーを駆使して議会で訴え続け、亡くなる直前にこの法案を成立させました。
この出来事は、国歌という伝統的な象徴であっても、時代の価値観に合わせてアップデートしていくことができるという、カナダ社会の柔軟性を示していると言えるでしょう。
バイリンガル版の歌詞構成
連邦政府の公式行事や国際的なスポーツイベントでは、英語とフランス語を混ぜ合わせた「バイリンガル版」が演奏されることが一般的です。
これは公式に定められた唯一の形式があるわけではありませんが、最も頻繁に使われる構成があります。
- 開始(英語)
“O Canada! Our home and native land! / True patriot love in all of us command.” - 中間(仏語)
“Car ton bras sait porter l’épée, / Il sait porter la croix! / Ton histoire est une épopée / Des plus brillants exploits.” - 結び(英語)
“God keep our land glorious and free! / O Canada, we stand on guard for thee…”
このように、英語の「未来志向・世俗性」とフランス語の「歴史・宗教性」を融合させることで、現代カナダの多文化主義を見事に表現しています。
異なる言語が交互に現れる構成は、多様性を重んじるこの国ならではの工夫だと感じます。
カナダ国歌の歴史と有名な豆知識

現在ではカナダの象徴として定着している「オー・カナダ」ですが、実は国歌として正式に法制化されたのは1980年と、比較的最近のことなのです。
それまではイギリスの国歌「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」が歌われることも多く、独自の国歌を持つまでの道のりは平坦ではありませんでした。
ここでは、その歴史的経緯や知っておくと面白い豆知識を紹介します。
1880年の誕生から制定の歴史
「オー・カナダ」の起源は1880年のケベック・シティに遡ります。
当時、フランス系カナダ人の守護聖人を祝う「聖ジャン・バティストの日」のために制作されたのが始まりです。
作曲家のカリクサ・ラヴァレと詩人のアドルフ=バジル・ルーティエによって作られたこの曲は、当初は「国民の歌(Chant national)」と呼ばれ、フランス系カトリック教徒の団結を鼓舞するためのものでした。
その後、20世紀に入ってから英語圏にも広まりましたが、歌詞の内容がカトリック色が強すぎたため、英語圏では独自の歌詞が作られるようになりました。
こうして、同じメロディに異なる歌詞が乗るという現在の形が出来上がったのです。
長らく「事実上の国歌」として扱われていましたが、1980年7月1日(カナダ・デー)に施行された「国歌法」によって、制定からちょうど100年を経て名実ともに国歌となりました。
この際、楽曲と歌詞はパブリックドメイン(公有)と宣言され、誰でも自由に演奏や編曲ができるようになった点は非常に画期的です。
スポーツ試合での演奏ルール
NHL(アイスホッケー)やMLB(メジャーリーグベースボール)など、カナダとアメリカにまたがるプロスポーツリーグでは、国歌斉唱が重要な儀式となっています。
基本的なルールとして、カナダとアメリカのチームが対戦する場合、まず「ビジターチーム(客)」の国歌が演奏され、次に「ホームチーム(主)」の国歌が演奏されます。
例えば、トロント(カナダ)でニューヨーク(アメリカ)のチームを迎える場合は、先にアメリカ国歌、次にカナダ国歌の順になります。
例外として面白いのが、NFL(アメリカンフットボール)のバッファロー・ビルズです。
彼らはアメリカのチームですが、本拠地がカナダ国境に近く多くのカナダ人ファンを持っているため、対戦相手に関わらず常に「オー・カナダ」も演奏するという独自の伝統を持っています。
スポーツを通じた国境を超えた絆を感じさせるエピソードですね。
国歌斉唱の儀式には様々なルールやマナーが存在します。
一般的な意味合いについては以下の記事で解説しています。
歌詞を変えた歌手の有名な事例
国歌は固定されたものではなく、アーティストによって新たなメッセージが込められることもあります。
特に大きな話題となったのが、2023年のNBAオールスターゲームでの出来事です。
カナダのR&B歌手ジュリー・ブラックは、冒頭の歌詞をたった一語だけ変えて歌いました。
- 原詩
“Our home and native land” (我らの故郷、そして祖国) - 変更
“Our home on native land” (先住民族の土地の上にある我らの故郷)
「and」を「on」に変えることで、カナダという国家が先住民族の土地の上に成り立っているという事実を認め、植民地支配の歴史を直視するメッセージを発信したのです。
このパフォーマンスは称賛と議論の両方を呼びましたが、国歌が現代社会における対話の媒体として機能していることを示す象徴的な事例と言えるでしょう。
先住民族の言語版国歌の存在
カナダでは、英語やフランス語だけでなく、先住民族の言語で歌われる国歌も重要視されています。
これは、過去の同化政策に対する反省と、真実と和解のプロセスの一環として位置づけられています。
例えば、北部で話されるイヌクティトゥット語版の「O’Kanata」や、クリー語、オジブウェ語などのバージョンが存在します。
これらの歌詞では、「native land(祖国)」という言葉が「創造主から与えられた聖なる土地」といった精神的な意味合いで翻訳されることが多く、西洋的な国家観とは異なる、土地への深い敬意が表現されています。
学校や地域の式典でも、これら先住民族語を取り入れた歌唱が増加傾向にあります。
カナダ国歌にみる多文化主義

ここまで見てきたように、「オー・カナダ」は単なる一曲の歌以上の意味を持っています。
フランス系住民の愛国歌として始まり、英語圏へと広がり、法制度を経て、さらにはジェンダー中立や先住民族との和解という現代的な課題を取り込みながら変化を続けてきました。
一つの国歌の中に、異なる言語、異なる歴史観、そして多様な人々の声が共存していることこそが、カナダという国のあり方そのものを示していると私は感じます。
「カナダ 国歌」と検索してこの記事にたどり着いた方が、単なる歌詞の意味だけでなく、その背景にある深いストーリーに触れ、多文化共生社会の難しさと希望について考えるきっかけになれば幸いです。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、法的効力や政治的な正確性を保証するものではありません。正確な情報については、カナダ政府の公式サイト等をご確認ください。





