オーストラリアの国歌に関する情報を調べていると、歌詞の意味や翻訳だけでなく、その歴史的背景や2021年に行われた歌詞変更の意図など、多くの興味深い事実に行き着きます。
スポーツの国際大会などで耳にする機会も多い『アドヴァンス・オーストラリア・フェア』ですが、実は今の形になるまでには長い議論と変遷がありました。
また、有名な『ワルツィング・マチルダ』との違いや、英国王室との関係性についても、複雑な事情が絡み合っていると言えます。
この記事では、オーストラリア国歌の歌詞に込められた深い意味や、先住民族との和解を目指す現代オーストラリアの姿を、歴史的な視点も交えながら分析していきます。
- 2021年に改定された最新の歌詞とその日本語訳
- 「Young and Free」から「One and Free」へ変更された理由
- なぜ『ワルツィング・マチルダ』は国歌にならなかったのか
- 英国王室歌とオーストラリア国歌の使い分けルール
オーストラリア国歌の歌詞と和訳

オーストラリアの国歌であるアドヴァンス・オーストラリア・フェア(Advance Australia Fair)は、雄大な自然と人々の団結を歌い上げた美しい楽曲です。
しかし、その歌詞には単なる愛国心以上の、オーストラリアという国家が歩んできた歴史や、多文化社会としての理想が深く刻み込まれていると考えられます。
ここでは、最新の英語歌詞とその日本語訳、そしてカタカナでの読み方を確認しながら、特に注目すべきフレーズの意味を紐解いていきましょう。
英語歌詞と日本語訳の全文
現在公式に歌われている歌詞は第2番まで存在します。
特に第1番は国際的なスポーツイベントなどで頻繁に耳にするパートですので、その意味を正確に把握しておきたいところです。
Verse 1(第1番)
Australians all let us rejoice,
For we are one and free;
We’ve golden soil and wealth for toil;
Our home is girt by sea;
Our land abounds in nature’s gifts
Of beauty rich and rare;
In history’s page, let every stage
Advance Australia Fair.In joyful strains then let us sing,
Advance Australia Fair.
日本語訳
オーストラリア人よ、みなで喜び合おう
我々は「一つ」であり、自由なのだから
我々には黄金の土壌と、勤労に対する富がある
我々の故郷は、海に囲まれている
我々の大地は、豊かで希少な自然の恵みに満ち溢れている
その美しさは豊かで稀有なものだ
歴史のページにおいて、あらゆる段階で
美しきオーストラリアを前進させよう
喜びの旋律に乗せて、さあ歌おう
美しきオーストラリアよ、前へ
Verse 2(第2番)
Beneath our radiant Southern Cross
We’ll toil with hearts and hands;
To make this Commonwealth of ours
Renowned of all the lands;
For those who’ve come across the seas
We’ve boundless plains to share;
With courage let us all combine
To Advance Australia Fair.In joyful strains then let us sing,
Advance Australia Fair.
日本語訳
輝く南十字星のもと
我々は心と手を使って勤労に励む
我々のこの連邦を
すべての国々の中で名高きものにするために
海を渡ってやってきた人々のために
我々には分かち合うべき広大な平原がある
勇気をもって、我々はみな団結しよう
美しきオーストラリアを前進させるために
喜びの旋律に乗せて、さあ歌おう
美しきオーストラリアよ、前へ
※日本語訳は筆者による意訳を含みます。正確な解釈は文脈によって異なる場合があります。
歌詞のカタカナ読みと発音
英語の歌詞を実際に口ずさんでみたいという方のために、カタカナでの発音ガイドを作成しました。
オーストラリア英語特有の訛り(オージー・イングリッシュ)を過度に意識するよりも、まずはリズムに乗せてはっきりと発音することがポイントと言えるでしょう。
第1番 カタカナ読み
オーストレイリアンズ オール レッ・タス リジョイス
フォー ウィー アー ワン アンド フリー
ウィーヴ ゴールデン ソイル アンド ウェルス フォー トイル
アワ ホーム イズ ガート バイ シー
アワ ランド アバウンズ イン ネイチャーズ ギフツ
オブ ビューティ リッチ アンド レア
イン ヒストリーズ ペイジ、レット エヴリ ステイジ
アドヴァンス オーストレイリア フェア
イン ジョイフル ストレインズ ゼン レッ・タス シング
アドヴァンス オーストレイリア フェア
変更された「One and Free」の意味
2021年1月1日、オーストラリア国歌に歴史的な変更が加えられました。
第1番の2行目にあった「For we are young and free(我々は若く、自由なのだから)」という歌詞が、「For we are one and free(我々は一つであり、自由なのだから)」へと書き換えられたのです。
たった一語の変更ですが、ここには極めて重い政治的・文化的な意図が込められていると分析できます。
従来の「Young(若い)」という表現は、オーストラリアの歴史が18世紀の英国人入植から始まったという植民地主義的な視点に基づいているとの批判が根強くありました。
6万5千年以上前からこの地に住む先住民族(アボリジニやトレス海峡諸島民)にとって、自分たちの土地を「若い国」と呼ぶことは、彼らの長い歴史を否定することに他ならなかったからです。
「One(一つ)」への変更は、先住民族の歴史を尊重し、多文化主義国家として国民が団結(Unity)することを目指すという、国家としての意思表示であると言えるでしょう。
girt by seaの意味と解釈
第1番に登場する「Our home is girt by sea」というフレーズは、多くの日本人にとって馴染みのない表現かもしれません。
「girt」は「gird(囲む、帯を締める)」の過去分詞形で、現代英語ではほとんど使われない古語的な表現です。
直訳すれば「我々の故郷は海に囲まれている」となりますが、この言葉はオーストラリア人の間で一種のアイデンティティ、あるいはユーモアのネタとして親しまれています。
広大な大陸が海によって隔絶されているという地理的条件は、独自の生態系や文化を育んだ一方で、世界からの孤立感をもたらす要因でもありました。
この「girt」という一語には、島国としての誇りと、どこか自虐的なニュアンスが同居していると解釈できます。
第2番の歌詞が示す移民国家の姿
第2番の歌詞には、「For those who’ve come across the seas / We’ve boundless plains to share(海を渡ってやってきた人々のために / 我々には分かち合うべき広大な平原がある)」という一節があります。
これは、オーストラリアが移民によって形成された国家であることを象徴するフレーズです。
広大な国土(Boundless plains)を、新しく来た人々と分かち合う(Share)という精神は、多文化共生社会の理想を表しています。
しかし一方で、現実の移民・難民政策をめぐる議論においては、この歌詞が皮肉として引用されることも少なくありません。
「本当に無限の平原を分かち合えているのか?」という問いは、現代オーストラリアが抱える政治的課題そのものであると言えるでしょう。
オーストラリア国歌の歴史と雑学

現在の国歌が定着するまでには、実は長い道のりがありました。
「オーストラリアといえばこの曲」というイメージが強い『ワルツィング・マチルダ』との関係や、英国王室との複雑な距離感など、知っておくとより深く国歌を理解できる背景知識について解説します。
国歌制定の歴史と国民投票
オーストラリアの国歌が『アドヴァンス・オーストラリア・フェア』に正式に定まったのは、1984年と意外にも最近のことです。
それまでは英国の『ゴッド・セーヴ・ザ・クイーン』が国歌として扱われていました。
独自の国歌を求める動きが決定的となったのは、1977年に行われた国民投票です。
この投票では、以下の4曲が候補として挙げられました。
- アドヴァンス・オーストラリア・フェア
- ワルツィング・マチルダ
- ゴッド・セーヴ・ザ・クイーン
- ソング・オブ・オーストラリア
結果として『アドヴァンス・オーストラリア・フェア』が最も多くの支持を集めましたが、これは国民が「荘厳で式典にふさわしい曲」を選んだ結果であると推測されます。
ワルツィング・マチルダとの違い
世界的に最も有名なオーストラリアの歌といえば、間違いなく『ワルツィング・マチルダ』でしょう。
しかし、なぜこの曲は国歌にならなかったのでしょうか。
最大の理由は、その歌詞の内容にあると考えられます。
この歌は、貧しい放浪者(スワッグマン)が羊を盗み、警官に追い詰められて沼に飛び込み自殺するというストーリーを描いています。
権威への反抗心や自由な精神(ラリキン精神)を象徴する歌として国民に深く愛されていますが、外交儀礼や金メダル授与の瞬間に流れる「国の顔」としては、さすがに不適切だと判断されたというわけです。
それでも、現在も「非公式の国歌」としてスポーツイベントなどで歌われる機会は多く、国民の情緒的な支えとなっていることは間違いありません。
王室歌と国歌の使い分けルール
オーストラリアは現在も英連邦王国の一員であり、英国王を国家元首としています。
そのため、独自の国歌とは別に「王室歌(Royal Anthem)」として『ゴッド・セーヴ・ザ・キング』(女王在位時はクイーン)が存在します。
公式なルールでは、国王や王室メンバーがオーストラリアを訪問した際の行事において、王室歌が演奏されることになっています。
通常はイベントの冒頭に王室歌、終了時にオーストラリア国歌が演奏されるという使い分けがなされています。
英国国歌(王室歌)自体の詳細な背景や意味については、以下の記事で詳しく解説されています。
オーストラリアとの関係性を理解する上でも役立つでしょう。
先住民族言語版の国歌斉唱
近年、ラグビーのオーストラリア代表(ワラビーズ)の試合前などで、英語の国歌斉唱の前に先住民族の言語(Eora語など)で国歌を歌う場面が見られるようになりました。
これは「和解(Reconciliation)」の象徴的なアクションであり、単なる翻訳にとどまらず、土地への敬意や先祖との精神的なつながりを表現するものです。
2020年にオリビア・フォックスがEora語で歌唱したパフォーマンスは大きな話題となり、オーストラリアが真の多文化共生国家へと歩みを進めていることを世界に印象づけました。
オーストラリア国歌の知識まとめ

オーストラリア国歌『アドヴァンス・オーストラリア・フェア』について、歌詞の意味から歴史的変遷までを解説してきました。
この国歌は、単に国を称える歌というだけでなく、「Young」から「One」への歌詞変更に見られるように、オーストラリアという国がどのように自国の歴史と向き合い、先住民族や移民を含めたすべての国民を統合しようとしているのかを映し出す鏡のような存在だと言えるでしょう。
次にこの曲を耳にしたときは、ぜひ「girt by sea」の響きや、そこに込められた「One and Free」の願いに思いを馳せてみてください。
本記事の情報は執筆時点のものです。政府の公式見解や最新のプロトコルについては、オーストラリア政府の公式サイトなどをご確認ください。



