「イギリスには国歌がない?」と聞くと驚くかもしれません。
実は、イギリス単独の正式な国歌は存在せず、現在も「God Save the King」が使われています。
本記事では、イギリス国歌の歴史や歌詞、なぜ“ない”と言われるのか、そしてエルサレムや希望と栄光の国といった代替候補の存在まで詳しく解説します。
読むことで、イギリス国歌に関する疑問がすっきり解消され、背景にある文化や議論も理解できるようになります。
- イギリス国歌の歴史と成り立ち
- 国歌の歌詞や意味の詳細
- 君主により歌詞が変わる理由
- 第二国歌としての候補曲の特徴
イギリス国歌の歴史と特徴を解説

- イギリス国歌の歴史と成り立ち
- 君主により歌詞が変わる理由
- イギリス国歌の歌詞(原文・カタカナ表記・和訳)
- 歌詞の意味をわかりやすく解説
- 国歌としての「エルサレム」の位置づけ
- 「希望と栄光の国」の由来と役割
- 「威風堂々」とイギリス国歌の関係
イギリス国歌の歴史と成り立ち
イギリスの国歌「God Save the King(またはQueen)」は、1745年に正式に演奏された記録が残る、非常に長い歴史を持つ楽曲です。
この歌はイギリスの王室と深く結びついており、国家そのものを称えるというよりも、君主個人への祈りの歌として成り立っています。
その理由は、当時のイギリスが絶えず内外の脅威にさらされていたことにあります。
具体的には、1745年のジャコバイトの反乱という歴史的な出来事が大きく関係しています。
このとき、スコットランドから反体制派であるチャールズ・エドワード・ステュアートがイギリスに進軍し、王政の安定が揺らぎました。
その脅威に対抗する象徴として、王を守ることを祈願するこの歌がロンドンの劇場で初めて公に演奏され、大きな反響を呼びました。
このように、国家というより王室に焦点を当てた点が、他国の国歌とは一線を画しています。
また、この歌は正式に法律で国歌と定められているわけではなく、慣習によって広く使用されてきた点もユニークです。
これには、イギリスの伝統を重んじる文化や、立憲君主制のもとでの王室の象徴的な立場が影響しています。
歴史の中で「God Save the King」は、ヨーロッパ各地でも編曲されたり引用されたりし、他国の国歌や愛国歌に影響を与えてきました。
ベートーヴェンやリストといった作曲家もこの旋律を用いた作品を残しています。
ただ、近年では「戦争を賛美する内容だ」と批判されることもあり、特にスポーツイベントではイギリス独自の国歌を求める声も上がっています。
こうした背景から、イギリス国歌は単なる歌ではなく、王室と国民、そして歴史そのものを反映した存在として現在に至るまで受け継がれています。
君主により歌詞が変わる理由
イギリス国歌「God Save the King(またはQueen)」の大きな特徴の一つに、在位中の君主の性別によって歌詞が変わるという点があります。
これは非常に珍しく、他国の国歌と明確に異なるポイントです。
この変更は君主個人への忠誠と祝福を直接的に表現するためです。
その理由は、イギリスの国歌が「国そのもの」ではなく、「君主」を対象としているからです。
例えば、男性の王が在位しているときは「God Save the King」、女性であれば「God Save the Queen」となります。
これに伴い、歌詞中の代名詞も「him」や「his」から「her」へと変化します。
これは、君主に対する敬意を表すとともに、国民が一致団結してその君主を支える姿勢を示す象徴でもあります。
具体的には、1952年にエリザベス2世が即位した際、それまで歌われていた「God Save the King」は即座に「God Save the Queen」に切り替わりました。
そして、2022年にチャールズ3世が即位した現在では、再び「God Save the King」が使用されています。
このような柔軟な対応は、英国王室の伝統に則ったものですが、制度的にではなく慣習として定着している点が興味深いところです。
ただし、歌詞の変更には注意点もあります。
曲のメロディー自体は変わらないため、歌詞の入れ替えに慣れていない国民や外国人にとっては混乱を招く可能性があります。
また、公式文書や教材の更新にも影響を与えるため、即位と同時に広く告知が行われる必要があります。
このように、君主の性別によって歌詞が変わるのは、イギリス独自の君主制と文化が色濃く反映された特徴のひとつなのです。
イギリス国歌の歌詞(原文・カタカナ表記・和訳)
「God Save the King」の歌詞は、君主への祈りと国の安定を願う内容が込められています。
ここでは、その原文、カタカナ表記、そして和訳を紹介します。
第1節
God save our gracious King!
Long live our noble King!
God save the King!
Send him victorious,
Happy and glorious,
Long to reign over us,
God save the King.
カタカナ
ガッド セイヴ アワ グレイシャス キング
ロング リヴ アワ ノーブル キング
ガッド セイヴ ザ キング
センド ヒム ヴィクトリアス
ハッピー アンド グロリアス
ロング トゥ レイン オーヴァー アス
ガッド セイヴ ザ キング
和訳
神よ 慈悲深き我らの王を守りたまえ
高貴なる我らの王が 長く生きたまえ
神よ 王を守りたまえ
彼に勝利を与えたまえ
幸福と栄光を授けたまえ
我らの上に長く君臨したまえ
神よ 王を守りたまえ
第2節
Thy choicest gifts in store,
On him be pleased to pour,
Long may he reign;
May he defend our laws,
And ever give us cause,
To sing with heart and voice,
God save the King.
カタカナ
ザイ チョイセスト ギフツ イン ストア
オン ヒム ビー プリーズド トゥ ポア
ロング メイ ヒー レイン
メイ ヒー ディフェンド アワ ローズ
アンド エヴァー ギヴ アス コーズ
トゥ シング ウィズ ハート アンド ヴォイス
ガッド セイヴ ザ キング
和訳
あなたの選り抜かれし贈り物を
彼に惜しみなく注ぎたまえ
彼が長く統治されますように
我らの法律を守りたまえ
そして常に我らに歌う理由を与えたまえ
心と声で歌えるように
神よ 王を守りたまえ
第3節
Not in this land alone,
But be God’s mercies known,
From shore to shore!
Lord, make the nations see,
That men should brothers be,
And form one family,
The wide world o’er.
カタカナ
ノット イン ディス ランド アローン
バット ビー ゴッズ マーシーズ ノウン
フロム ショア トゥ ショア
ロード メイク ザ ネイションズ スィー
ザット メン シュッド ブラザーズ ビー
アンド フォーム ワン ファミリー
ザ ワイド ワールド オア
和訳
この国だけでなく
神の慈悲が世界中に知られんことを
岸から岸へと広まらんことを
主よ 諸国に知らしめたまえ
人々が兄弟となるべきことを
世界に一つの家族を築くべきことを
広き世界において
出典 The Royal Family – National Anthem
歌詞の意味をわかりやすく解説
イギリス国歌「God Save the King」は、君主を称えるだけでなく、国家とその国民の団結を願う強いメッセージを持っています。
第1節は、王の健康と長寿、勝利を神に祈る内容です。
この節の中心にあるのは、「神よ 王を守りたまえ」という繰り返しのフレーズです。
これは単なる儀礼的な言葉ではなく、王の平和的な統治と国の安定を願う、深い祈りの表現といえます。
特に「勝利」「幸福」「栄光」という言葉が使われていることから、王が国内外で成功し、人々に誇りをもたらす存在であってほしいという願いが読み取れます。
王が「我らの上に長く君臨する」ことで、国民が安心して暮らせる社会が築かれるという期待も込められています。
第2節では、神の恵みが王に注がれるよう祈っています。
この節は第1節に比べて、より具体的に王の統治に関する内容が含まれています。
「選り抜かれし贈り物」とは、知恵や慈悲、公正さなどの象徴です。
これらが王に与えられることで、法律が守られ、正義が行き渡る国になることが願われています。
特に注目すべきは、「心と声で歌えるように」という表現です。
これは、国民が誇りと感謝を込めて王を称えられるような政治が行われてほしいという願望とも取れます。
第3節は、イギリスの枠を超えた普遍的な願いが込められています。
国の内部だけでなく、神の慈悲が世界中に広まってほしいという内容です。
「岸から岸へ」とは、地理的な境界を越えてという意味であり、世界中の国々が兄弟のように助け合い、一つの家族のように共存できることが理想とされています。
この節は、イギリスの国歌でありながら、普遍的な平和の願いが含まれている点で非常に象徴的です。
ただし、このような理想が現実にどれだけ反映されているかには議論の余地もあるでしょう。
このように「God Save the King」は、単なる王室賛歌ではなく、王の統治を通じて国と世界に平和と繁栄をもたらしてほしいという、広い視点からの祈りの歌として受け取ることができます。
国歌としての「エルサレム」の位置づけ
「エルサレム(Jerusalem)」は、イギリスの国歌として公式に定められているわけではありませんが、事実上の国歌候補として広く支持を集めてきました。
スポーツや文化行事などにおいて、イギリス単独の代表として使用される場面でこの曲が演奏されることが多くなっており、イギリス人の心情やアイデンティティを表す象徴的な存在となっています。
その背景には、イギリスが連合王国の中の一構成国であるという立場にあります。
スコットランドやウェールズ、北アイルランドがそれぞれ独自の国歌を持つ一方で、イギリスはこれまでイギリスの国歌「God Save the King」を共有してきました。
ただ、サッカーやラグビーなど、国ごとに代表チームが分かれる競技では、イギリス独自の歌を使用する必要性が高まってきたのです。
具体例としては、2010年のコモンウェルスゲームズの際、イギリス選手団の表彰式で使用される曲を決めるための国民投票が行われたことが挙げられます。
このとき、「女王陛下万歳」や「希望と栄光の国」と並び、「エルサレム」が候補となり、最終的に52%の票を獲得して選ばれました。
それ以来、多くの国際大会や文化的イベントでこの曲がイギリスの代表曲として演奏されるようになっています。
「エルサレム」は、18世紀の詩人ウィリアム・ブレイクによる詩をもとに作られた楽曲で、神話的なイメージと産業革命期の社会への批判精神が織り交ぜられた内容です。
このため、単なる愛国歌にとどまらず、深い思想性を持つ点も注目されています。
ただし、宗教色や詩の象徴性が強いため、すべての国民にとって親しみやすい曲であるとは限らず、正式な国歌とするには慎重な議論が必要だという意見もあります。
それでもなお、イギリス人の多くがこの曲に誇りを感じているのは間違いありません。
「希望と栄光の国」の由来と役割
「希望と栄光の国(Land of Hope and Glory)」は、イギリスにおける代表的な愛国歌の一つです。
この曲は特にイギリス人の国家意識や誇りを表現する象徴的な存在であり、国歌の候補としてもたびたび取り上げられてきました。
この曲が誕生したのは1902年、作曲家エドワード・エルガーが手がけた行進曲「威風堂々 第1番」の中間部の旋律に、詩人アーサー・クリストファー・ベンソンが歌詞を付けたことがきっかけです。
もともとはエドワード7世の戴冠式を記念するための「戴冠式頌歌」の一部として用いられました。
その後、旋律の壮大さと歌詞の力強さが国民の心をとらえ、独立した愛国歌として演奏されるようになりました。
この曲の役割は多岐にわたります。
イギリス代表チームのスポーツ競技では、かつてラグビーリーグの試合などで国歌として演奏されていたことがあります。
また、BBCプロムスの最終夜では観客がイギリス国旗を振りながらこの曲を合唱するのが恒例であり、国民的なイベントには欠かせない存在となっています。
イギリスの一部では、コモンウェルスゲームズの勝利曲としても採用されていました。
ただし、植民地時代を想起させるような歌詞の一部には批判的な声もあります。
特に「さらに広く広く、帝国の領土を広げよ」といったフレーズには、現代の価値観とのギャップがあると指摘されています。
このため、イギリス国歌としての採用には賛否が分かれています。
それでも、この曲の持つ高揚感と連帯感は、国民のアイデンティティを象徴するうえで非常に効果的です。
公式な国歌ではないものの、多くの国民に愛され、儀式やイベントの場で重要な役割を果たし続けています。
「威風堂々」とイギリス国歌の関係
「威風堂々(Pomp and Circumstance)」は、エドワード・エルガーが作曲した行進曲集であり、その中でも特に有名な第1番が、イギリスの国民的愛国歌「希望と栄光の国」として知られる旋律を含んでいます。
直接的にイギリス国歌である「God Save the King」と同一ではないものの、国歌と並ぶ象徴的な存在として人々に広く認識されています。
この曲が初演されたのは1901年で、翌年のエドワード7世の戴冠式に際し、その中間部に歌詞を加えた「希望と栄光の国」が作られました。
王自らが「この旋律には歌詞をつけるべきだ」と提案したことが、後の編曲のきっかけとなったと言われています。
このように、王室の意向を背景に誕生したという点では、イギリス国歌との精神的なつながりが感じられる楽曲です。
その後、「威風堂々」は英国を象徴する楽曲のひとつとして、様々な国家的なイベントや式典で演奏されてきました。
特にBBCプロムスのラストナイトでこの曲が流れると、会場は一体感に包まれ、国旗が振られる中で観客が大合唱する光景は、もはや国民行事のような風景となっています。
一方で、誤解されがちなのは、「威風堂々」自体がイギリスの正式な国歌であるという認識です。
これは正確ではありません。
「God Save the King」がイギリスの国歌として広く用いられており、「威風堂々」はあくまでそれに準ずる存在、つまり第2国歌や愛国歌として位置づけられています。
また、「威風堂々」の旋律はアメリカ合衆国では卒業式の入場曲としても使用されており、イギリスのイメージとは異なる文脈で親しまれていることも特筆すべき点です。
このように、音楽的な魅力と汎用性の高さが、国境を越えて影響を与えてきた理由だと言えるでしょう。
このように考えると、「威風堂々」は単なるクラシック音楽の一曲ではなく、イギリス人にとっての誇りと歴史を映し出す文化的なアイコンとも言える存在です。
正式な国歌とは異なる形で、確かな存在感を持ち続けているのです。
イギリス国歌の現状と変更の動き

- 国歌の変更を求める世論と背景
- 第二の国歌としての候補曲たち
- エルサレムがスポーツで選ばれる理由
- 希望と栄光の国の使用例と人気
国歌の変更を求める世論と背景
イギリスでは現在も「God Save the King」が国歌として使われていますが、それに対して疑問を持つ人々は少なくありません。
国歌の変更を求める声は、イギリス独自のアイデンティティを強調したいという世論の高まりと密接に関係しています。
この動きが本格化した背景には、連合王国の構成国それぞれがスポーツなどで個別の代表チームを持ち、それぞれ独自の国歌を使用しているという事情があります。
スコットランドでは「スコットランドの花」、ウェールズでは「我が父祖の土地」が一般的に使用されています。
一方で、イギリスだけがいまだにイギリス全体の国歌を用いており、これが「他国との差別化ができていない」「イギリス独自の文化を表せていない」とする不満につながっています。
これは単なる音楽的な好みではなく、国としての象徴を自らの手で選びたいという意識の表れと考えられます。
また、政治家の中にも国歌の見直しを訴える人物が現れています。
2007年には自由民主党のグレッグ・マルオランド議員が、イギリスは独自の国歌を持つべきだとする動議を提出しました。
この動きは法律的な拘束力を持たないものでしたが、多くの支持を集め、国歌に対する国民的関心が高まるきっかけとなりました。
ただし、国歌を変更するということには一定の課題もあります。
長年にわたり使われてきた「God Save the King」には深い伝統と歴史があり、それを急に変えることに抵抗を感じる層も少なくないのです。
このような意見の違いが、現在も議論が進まない要因の一つとなっています。
いずれにしても、イギリス独自の国歌を求める声は今後も続くと考えられます。
国民が自らの文化や価値観を象徴する歌を選ぶことは、現代における国家意識の形成において極めて重要な問題です。
第二の国歌としての候補曲たち
イギリスにおいて、「God Save the King」に代わる第二の国歌候補としてしばしば挙げられる楽曲がいくつか存在します。
これらの曲はイギリスの文化や歴史的背景を象徴するものであり、多くの国民に愛されています。
代表的な候補として挙げられるのが「エルサレム」「希望と栄光の国」「我は汝に誓う、我が祖国よ」の3曲です。
「エルサレム」はウィリアム・ブレイクの詩に基づく荘厳な合唱曲で、イギリスの美しい風景と精神的な再生を願う内容が込められています。
一方、「希望と栄光の国」はエドワード・エルガー作曲による壮大な愛国歌で、帝国時代の威厳を思わせる力強さが特徴です。
「我は汝に誓う、我が祖国よ」は落ち着いた旋律に重厚な誓いの言葉が重なり、感情に訴えかける一曲です。
これらの候補曲には、それぞれメリットとデメリットがあります。
例えば「エルサレム」は文化的な意味合いが深く、教会や学校でも親しまれていますが、宗教的な背景が強いため、公的行事での使用には慎重さが求められます。
「希望と栄光の国」は多くの場面で演奏される機会が多く、すでに馴染みのある曲ではありますが、その歌詞が植民地支配を肯定する内容だと見なされる場合があり、現代の価値観と合わないという意見もあります。
「我は汝に誓う、我が祖国よ」は戦没者追悼と深く結びついているため、国歌としての使用には抵抗感を持つ人もいるでしょう。
それでも、これらの曲はそれぞれが持つ力強いメッセージによって、多くの国民に希望や誇りを感じさせています。
特にスポーツの国際試合や儀式などで自然と歌われる場面があることから、すでに実質的な「第二の国歌」として機能しているとも言えます。
このように考えると、イギリスにとっての第二国歌とは、単なる予備の楽曲ではなく、国民の心を映し出す鏡のような存在であると言えるでしょう。
エルサレムがスポーツで選ばれる理由
イギリスのスポーツにおいて、「エルサレム」が国歌代替として選ばれることが増えてきた背景には、いくつかの明確な理由があります。
この曲はイギリス人の民族的誇りを喚起しやすく、かつ公式行事でも使用しやすい中立的な性格を備えているためです。
まず、「エルサレム」はイギリスの自然や歴史的精神性を讃える歌であり、聴く人の心にイギリス人としての自覚や帰属意識を呼び起こします。
特にスポーツの国際試合という場面では、観客も選手も国を代表して戦うという意識が高まるため、このような精神的な一体感を促す楽曲が求められるのです。
さらに、この曲は宗派や政治的立場に左右されにくい内容であることも大きな利点です。
例えば「希望と栄光の国」が帝国主義的な歌詞を含むとされて批判を受けることがある一方で、「エルサレム」はブレイクの詩的表現を用いてイギリスの再生と理想郷の建設を目指すというメッセージを含んでおり、より普遍的なテーマを扱っています。
また、実際のスポーツ現場でも「エルサレム」の使用は定着しつつあります。
2003年以降、イギリスのクリケット代表チームはこの曲を入場曲として採用し、観客の間にも広く浸透しました。
2010年のコモンウェルスゲームズでは、一般投票によりこの曲がイギリス代表の表彰時に流れる公式ソングとして選ばれました。
このように、スポーツを通じて自然に市民の間に受け入れられたことも、この曲の採用が進んだ一因です。
注意点としては、この曲が一部の宗教儀式で使用されてきた背景から、「宗教的すぎる」という印象を持たれる可能性もあります。
しかし、実際にはその詩はむしろ自由と理想を象徴するものであり、宗教的教義に直接関わるものではありません。
このように、「エルサレム」はイギリスを代表する楽曲として、スポーツの場で自然な形で受け入れられています。
特定の歴史観や政治的背景に偏らないという点が、広範な支持を集める理由の一つになっていると考えられます。
希望と栄光の国の使用例と人気
「希望と栄光の国(Land of Hope and Glory)」は、イギリスの中でも特にイギリスにおいて深い人気を誇る愛国歌のひとつです。
この曲は公式な国歌ではないものの、数多くの場面で使用されており、事実上の“第二国歌”として多くの人に親しまれています。
この曲はもともとエドワード・エルガーの行進曲「威風堂々」第1番の中間部に歌詞を付けて作られました。
エドワード7世の戴冠式のために用意されたもので、誕生当初から王室との関わりが深かった楽曲です。
これにより、国民の中では王室への敬意と国家への誇りが結びついた象徴的な歌として認知されてきました。
具体的な使用例としては、毎年夏に行われるBBCプロムスの最終夜「Last Night of the Proms」が挙げられます。
このイベントでは観客がユニオンジャックを振りながらこの曲を大合唱し、盛り上がりの頂点を迎える場面として非常に有名です。
また、政治の世界でも保守党の党大会でこの曲が流されることが恒例となっており、退場時のBGMとして使われることで知られています。
スポーツ分野でも例外ではありません。
特にラグビーのイギリス代表チームは、試合のキックオフ前にこの曲を流し、観客と選手が一体となって盛り上がる場面を作り出しています。
このとき歌詞は演奏されず、インストゥルメンタル版が使用されることが多いですが、それでもメロディーが持つ象徴性は十分に伝わります。
加えて、アメリカでは卒業式の入場曲としてこの旋律が使われていることから、実は国際的な知名度も高く、クラシック音楽としても教育の場で広く活用されています。
一方で、帝国主義的な内容を連想させる歌詞については賛否が分かれており、現代の多様な価値観と合わないと感じる人もいます。
そのため、国歌として正式採用するには議論が必要であるという声も根強く存在します。
このように、「希望と栄光の国」はさまざまな場面で活躍し続けており、イギリスの人々にとっては単なる曲以上の意味を持つ存在であると言えるでしょう。
イギリス 国歌をめぐる歴史と現状のまとめ
イギリス国歌は、歴史的背景と現代の議論を反映した重要な存在です。
君主制との深い関係から、国歌の歌詞や使用場面は時折変わり、議論を引き起こすこともあります。
スポーツや文化イベントでは「希望と栄光の国」や「エルサレム」などが使用される場面も増えており、イギリス国歌の役割も変化しています。
今後も国歌の在り方について議論は続くでしょう。
- イギリス国歌は1745年に初演された歴史ある楽曲
- 国歌は国家よりも君主個人への祈りが中心
- 歌詞は国王か女王かによって変化する
- 法律ではなく慣習として国歌とされている
- 国歌の歌詞は時代ごとに微調整されている
- 国民の間で国歌変更の声が上がっている
- スポーツの場では代替曲が使われることも多い
- 「エルサレム」は事実上のイギリス国歌候補
- 「希望と栄光の国」は愛国歌として高い人気がある
- 「威風堂々」は国民的イベントでも広く演奏される
- 国歌には宗教性や帝国主義的表現への懸念もある
- イギリス単独での国歌制定を求める動きがある
- 現国歌は伝統重視の象徴として定着している
- 各構成国が独自の国歌を持つ中でイギリスは共通国歌を使用
- 将来的には国民の意思により国歌の形が変わる可能性がある